LET IT BE

 こういう時だからこそ、深呼吸して落ち着こうじゃないか。

 慌てたところで、騒いだところで何がどうなる訳でもない。



3月11日。

東日本広域を襲った超巨大地震。そして津波。




神田駅からほど近いビルの7階にある支社にいた僕は、

立っていられないほど揺さぶられた。

ビル倒壊が一瞬頭をよぎるほど強い揺れだった。





まるで鉄道模型のジオラマのよう。

テレビの画面の向こうで、

押し寄せる巨大な波、いや海そのものが、

家屋や車をおもちゃのように運んでゆく。





既に数千人の死亡が伝えられ、数万人が行方不明という前代未聞の事態。

事故と隣り合わせにある原発の状況がリアルタイムに報道され、

普段耳にしない言葉に頭が混乱している。







さて。

何が言いたいのか、まとまってはいないが、

とにかく落ち着こう。大丈夫だ。

そして前を向こう。必要以上に悲観することはない。





結果を批判するのは簡単。

首都圏の停電に単を発する混乱。そして原発の不安。

メディアは一斉に東京電力を非難するが、

どんな専門家も予想だにしなかった巨大災害が起きた今、

原発の管理体制ばかりが何故やり玉にあがるのだろう。

「どんなことが起きても大丈夫」なものなどあり得ない。

ならば最初から原子力などに頼るべきではない。

そもそも論を言えば、

どんな目的であろうと、核など人間に制御できる力ではないのだ。


それだけの電力需要を発生させているのは、まさに僕ら1人1人。

人々が混乱するのと同様に、企業も混乱する。

停電するものだと思って生活すれば、それで済むこと。


将来振り返った時に、批判や反省は必要と思う。

今はそんなことをしている時ではない。

訳知り顔で一般市民に擦り寄るキャスターを見ていると、

この人たちのせいで日本が歪んでいるのではないかと思う。



東京の比にならないほど冷え込むかの地で、

寒さに耐え、わずかな食料を分け合う同じ日本国民を思えば、

予期せぬ停電くらい、我慢できるはずだ。


僕は生きていて、僕の家族も無事。

僕の同僚も、大切なお客さんもみんな無事。それで僕は十分だ。








LET IT BE。

誰もが一度は聞いた事があるだろう、THE BEATLESの名曲。

「あるがままに」。



地球を歪めるほどの大災害を前に、僕らにできることはあまりにも小さい。


けれどその小さな1つ1つの営みによって、

僕らは社会を形成している。



先日読んだ社内報に掲載されていたのは、

致知出版「小さな人生論」からの引用だった。



「一燈照隅　万燈照国」

賢は賢なりに、愚は愚なりに

一つのことを何十年と継続していけば必ずものになるものだ。

別に偉い人になる必要はないではないか。

社会のどこにあっても、その立場立場においてなくてはならぬ人になる

その仕事を通じて世のため人のために貢献する

そういう生きかたを考えなければならない。


国も社会も自分の外側にあるもの、

向こう側にあるもの、と人はともすれば考えがちである。

だが、そうではない。

そこに所属する一人一人の意識が、

国の品格を決め、社会の雰囲気を決め、社風を決定する。

一人ひとりが国であり社会であり会社なのである。









さあ。

誰がいけないとか、自分の不利益が、とか。

そういう話はやめにしよう。



会社に行くこと、ゆっくり休むこと、募金すること、新聞を読むこと。


今、あなたにできることは何ですか？


僕は僕にできること、

それを考え抜き、やり抜き、

亡くなった多くの方に恥ずかしくない毎日を送ろうと思う。

それが直接被災者のためになっていなくとも、

それこそが社会の原動力なのだと信じよう。

今のあなたにできること、

それは今のあなたにしかできないことでもある。






人間万事塞翁が馬。

この手で変えられることもあれば、変えられないこともある。

口元からこぼれてしまうような幸福も、

形容しがたい不幸も、僕らの手の中にあるものではない。


せめて、祈りと、強い思いだけは握りしめておこう。

きっと、良いことも起こる。

僕はそう信じている。