匿名 伊達直人

 全国で500人近く現れたらしい。

たくさんの伊達直人。

矢吹丈とか、何故か戦場カメラマンの某氏とか。



昨年末のクリスマスの１件を皮切りに、

とにかくたくさんの人が送り届ける「善意」。

中にはお年玉で買った文房具をプレゼントした小学生もいたと聞く。

連日の報道が次の伊達直人を生み出しているような気もするが、

こんな輪が広がっていくなんて、悪い話ではない。







しかしメディアで報道されるほど、いい話だとも言い切れぬ。

そう思うのは決して僕１人ではないだろう。





なぜなら、行為が一方的であるからだ。

好意・善意の寄付に、そこまで名を伏せる必要はなかろう。

送られた側も直接お礼が言いたいに違いない。


さらに言えば、何が必要なのか、きちんと確認できたらいい。

毛ガニから金の延べ棒まであったと聞いて、

何だか違う方向にエスカレートしているような印象を覚えた。










「粋」。

庶民が時代の主役であった江戸時代に醸成された、

しかし日本人が古来から持っていた人間性。


「あの、お名前は・・・」

「名乗るほどのモンじゃねぇ」

の粋。






伊達直人も・・・粋？




正しい事をするにも勇気がいる。

電車の中で老人に席を譲るだけで、目立つ。

見知らぬ者同士が交わることが極端に減ったこの社会。





人知れず夜更けにプレゼント、ではなくて、

たくさんのランドセルが手渡しで渡されていたとしたら、

それはそれは素敵な出来事に違いない。

名乗るほどのモンじゃねぇ、と名乗らず帰ればいいのだ。





匿名の影に、

名前がわからなければ、身元がバレなければ行動できてしまう日本人の習性。

某巨大掲示板での叩き合いや、

いっこうに減らない痴漢も、悪い方向に習性が働いた好例だ。


書き込みの度に本名も顔写真も表示されたら、

彼らは同じ書みを続けられるだろうか？

きっとそんなことにはなるまい。

誰だか分からないから、みんな言いたい事を言っているのだ。


電車で女の子のお尻を触ったサラリーマンが、

会社のエレベーターでも同じ事をするか？

絶対にそんなことしないだろう。

誰だか分からないから、被害者の気持ちを考えないのだ。









今回の、伊達直人の話はいい話。心からそう思う。

でも報道される度、なにやら違和感を感じたのも正直な気持ち。

何かおかしくないだろうか。



ランドセルを送る気持ちではなくて、

それが匿名の下で初めて伝えられる気持ちだということに、

なんだか残念な気持ちを覚えるのです。




どこにも何も送っていない僕に、とやかく言う権利はありませんが。