ふと思う

ふと思う。

「そろそろ新しい絵を描かなきゃ」って。



「描かなきゃ」ってのがポイントで。。。

もちろん描きたい気持ちがそれを可能にするんだけど、

「描かなきゃ」って思うんだ。


絵を売って生計立てているわけじゃない。

だがしかし、

気ままに落書きしてるわけでもない。

絵描きのことを画家と言うのが通俗的だが、

僕らは絵描きも彫刻かも作家と呼ぶ。つまりはアーティストってことかな。

美大の世界ではしごく自然なことだ。



一体何をもって作家と言うべきか。どんな人がアーティストなのか。

学生の時、たしかこんな質問を教授から投げかけられた。

作品を売った収入で暮らす人間のことか？

いや、作品を売らずにいるアーティストもいる。

アーティストと認められた人間がアーティストか？

いや、そんなこともあるまい。大体誰が認めるんだ、笑。


「答えはコレしかないんだ。」と、

その答えを何十年と求めてきたその教授は言った。

「アーティストとは、作品の制作を人生の中心に据えている人のことだ」と。


学生の頃、全くもって制作しない時があった。

全く描きたいものが無かったからだ。

制作の動機となる作品のテーマを、自分にリアルなテーマを見つけ出せずにいた。

だから、一時期本当にやる気の無かった自分がいた。


ある日突然に気がついた。

いつの間にか、描きたいものがあった。

頭の中が突然クリアーになった。

卒業まで１年もないある日のことだった。



今、絵とは全く無関係のことを仕事にしている。

あえて選んだ道だった。

妥協してデザイン関係に進む気は毛頭なかった。

描くなら僕の描きたいものを描きたいんだ、僕は。


仕事をしているのは、当たり前だが、制作に向いた環境ではない。

自由になる時間が少ないから、なかなか作業が進まないし。

結構なストレスなんだな、コレ。

学生だったら２週間で描き上げて、そいつが失敗か成功か見極められる。

その結果を踏まえて、前作をステップにした次の作品に即トライできる。

合間に美術館に行ってもいいし、新しい素材を捜し求めてもいい。



そんな一つ一つのアクションに、いちいち時間がかかるのはつらい。

一つのアイディアを鉛筆で起こして、それを描ききるまでに半年くらいかかる。

学生が１年で出来る制作に、いったい何年かかるんだろう。

そう、気持ちが焦るときもある。

今の仕事も、そしてそこから得られるものも大切だということ、

十分わかってはいるけど。






この間北斎を見てきて、そのせいでまた気持ちが落ち着かない。

そんな時、僕はふと思うのだ。

「絵を描かなきゃ」って。


よく聞かれるんだ。

「絵が趣味なの？」とか「趣味で家で描いてるんだね～」って。

正直、返事に困る、笑。

絵は好きだが、描いているが、一応趣味ではないんだよな。

趣味なら描けなくてもいい。描かなくてもいい。

でもそうではないんだ、この感覚。

僕は絵を描かねばならない。

自分はそうあるべきなのだ、と思ってる。

絵は自分の中心にいるべきなのだ、と思ってる。

絶対に譲ってはならない、

アーティストであろうとするならば。