蛙

長いと思っていた束の間の休日も、

いよいよ今日が最終日。


明日からは、また忙しい毎日が始まる。

考えただけでうんざりするが、

人間たるもの、労働なくしては生きていけないし、

うんざりするのも今のうち。

いざ始まればうんざりしている暇もないはずだ。






この休み中は思いのほかバイクに乗れなかった。

いや、乗らなかったのかもしれない。

最後の土日は、

見事に不安定な空模様。

これではバイクに乗るタイミングも掴めまい。








夕方になれば、

決まって暗くなる空、降りしきる雨。


蝉時雨も掻き消さんばかりのにわか雨に気を良くしたのか、

1匹のひきがえるが、

のそのそと歩いていた。



この辺にはまだまだ緑も残ってはいるが、

いったいどうやってこの住宅街で暮らしてきたのだろう。

突然遭遇したこの蛙を、

僕はしばらく眺めていた。










何かに悩んでいるのか、

いや、全く何も考えていないのか、

もの言いたげなその瞳。


目の前が壁なのに、

蛙は進もうとする。

なんて不器用なのだろう。





蛙はいい。

満員電車も知らず、やらねばならぬ仕事も無い。

毎日こうして歩き回り、腹を満たし、

土に潜って眠ればいいのだから。


湧いて出る仕事を捌き続ける、

どこまでやればいいのか分からない。


お前にはわかるまい、

働くということ。




そんなことを考えているのが見透かされたか、

蛙は何処かへ行ってしまった。






蛙はいい。

特にひきがえるは魅力的だ。

太い四肢、分厚い体。






蛙を描く。

描くということは、

即ち蛙という生き物の成り立ちを知るということ、

きっと、江戸の絵師ならそう言ったはずだ。


蛙の、蛙たる所以を、

探り、掴み、描き出す。

その空気を、その力を、その質を紙の上に表す。











蛙がうまく描けない。

いや、きっと蛙に限らない。


北斎ならどうしただろう。

若冲ならどう捉えただろう。

シーレの硬く柔らかい線を、

一体いつになったら手に入れられるだろう。




なんの成長も無い自分の絵。

自分の絵を成長させるには、

絵を見、絵を描くほかない。


蛙の何たるかを理解するには、

蛙を知るほかない。






お前にはわかるまい、

描くということ。


蛙に笑われる。