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人間の作り出した機械は、精緻かつ繊細に、
そして無欲、無感情にその役割を果たしてくれるもの。
所詮機械は機械なのである。
というのは、実は間違いなのではないかと思えるほど、
バイクには感情があるような気がしてならない。
春先にオーバーホールしたばかりのフロントフォークから、
またもオイルが滲み出していた。
気付いてはいたが、再入院させに行く暇も無ければ、
店のサービスファクトリーは予約がいっぱいでどちらにしろ間に合わない。
どうすることも出来ぬまま迎えた8月28日。
サンジーズの「夏フェス」、米沢ツーリングに参戦。
全行程800kmにも及ぶロングツーリングだ。
何とか持ちこたえて欲しいという僕の思いを知ってか知らずか、
ビューエルS1は相変わらずの快音を響かせて常磐道をひた走った。
そこが茨城県だろうが福島県だろうが、
尋常でない残暑の厳しさは東京と全く変わりはしない。
レーザー光線のように鋭い陽射しに襲われながら、北へ向かう。
ただ、風は東京とは違う。
時折り吹く風は涼しくて優しい。東京の異常な熱風とは大違い。
音も無く秋が近づいていることを匂わすような、そんな風に癒される。
今回のツーリングは、別の何かも近づいていたわけですが・・・笑
燃費は相変わらず悪い。
ハイオク満タンで120kmが限界。
12km/ℓというのは、今時のクルマより劣る燃費性能だ。
低速で走っていれば問題ないが、かっ飛ばすとにじみ出たフォークオイルが飛び散る。
当然後ろに飛ぶわけだが、そこにあるのがブレーキキャリパーだ。
常磐富岡を下りて一般道に入る頃には、キャリパーにはオイルが付着。
ただでさえ制動力の貧弱な僕のバイクは、
感覚的に通常の半分以下のブレーキの効き具合になっていた。
最大のブレーキがエンジンブレーキって大問題ですよね。笑
スロットルを捻れば山間に心地よく響く排気音のおかげで、
ついついいつものようにコーナーに突っ込んでいってしまい、何度かヒヤリとさせられた。
ブレーキングに気を遣うという、非常にストレスフルな走りもゴール目前。
福島・飯坂温泉あたりからR399を上がり、摺上川ダムで休憩した。
人間の力の大きさを感じずにはいられない、巨大な建造物。
自然の山並みとマッチしているようなしていないような、なんだか不思議な光景だ。
遠くまで走りに来るといつも思う。
30年も生きてきて、初めて走る道。二度と立ち寄らないかもしれない街。
あの東京と道で繋がっているそこここに、
僕の知らない風景や、そこに住む人々の思いや生活がある。
自分ひとりの人生で、いったいどこまでのことができるのだろうか、
この世界の何が知れるのだろうか、なんてことまでぼんやり考える。
摺上川ダムを出発するとき、セルが回らなくなった。
違和感を感じたが、もう一度スターターを押すとエンジンはいつものように震え始めた。
R399を駆け上がって福島県に別れを告げ、いよいよ山形県に入る。
小休止して、さて峠を降りるかと思った時、エンジンがかからなくなった。
どういう訳だか、セルモーターがビクともしない。
下り坂とは言え、200kg以上ある鉄の塊。押しがけで汗だくだ。
何とか息を吹き返したビューエルを元気付けるように、
派手にアクセルを煽ってエンジンを調子付けながら峠を下る。
ずいぶん長い時間に感じた。
幾多のヘアピンをクリアして街に出る直線に辿り着いた時、
明らかに異常な挙動とともに、ついにエンジンはストールしてしまった。
緩い下り坂の直線を何度もビューエルと走ってはギアを繋ぎ押しがけにトライしたが、
エンジンがかかることは無かった。
動かないバイクほど頼りないものはない。
それを見守るしかない時ほど心細いものもない。
どんなにカッコいいバイクでも、動かなければ、走れなければ意味が無いだろう。
RCサクセションの名曲「雨上がりの夜空に」。
あの気持ちを地で行く心境。
一体どうしたんだ。
はるばる山形に足を踏み入れて、ここでビューエルが死んでしまうとは。
体中から噴き出す汗を抑える術も無く、みんなに迷惑をかけることを心配していた僕だが、
すぐに同行していたお客さんやスキンヘッドのボスが僕の元へやってきた。
彼らは無線を持っているから、こんなときには心強い。
バイクの不調はおそらく電気系のトラブル。
バッテリーが充電されない状態で走り続け、ついに力尽きたという所か。
JAFなんかを呼ぶことも考えたが、1人頼れる男の子がいることを思い出した。
モト・ギャルソン時代の後輩メカニック。
彼のお父さんは福島市内で日本でも珍しいビューエルオンリーのディーラーをやっていて、
ギャルソンでの修行を終えた彼は実家の店を一緒に経営しているのだった。
人気のない道端の空き地に、隠すようにビューエルを停める。
閉店後に、彼に福島からバイクを回収しに来てもらうという筋書きだ。
しかし田舎とは言え、
大切なバイクを誰でも盗めるような所に置いていくなんて、不安で仕方が無い。
突然オオカミのような眼光鋭い野良犬まで現れて、気分は悪い。
バイクが止まってしまったこと、他のメンバーに迷惑をかけてしまっている気がすること、
そして、愛車を野外に置き去りにすること。
言葉にならない憂鬱で不安な気持ちを飲み込んで、僕はその場を後にした。
宿まではおよそ15kmほどの距離だった。
小野川温泉郷は、1200年以上の歴史を誇る小ぢんまりとした温泉街。
中心部から少し離れた「河鹿荘」は、サンジーズ御用達の落ち着いたお宿だ。
部屋の外は大きな鯉のおよぐ池。
夕暮れの風が心地よい。
昔バイクを盗まれたことがある。
だから不安は常に頭の片隅にあったが、それ以上に体も疲れていた。
温泉にゆっくり浸かって、だいぶ気分は良くなった。
夕食はもちろん米沢牛づくし。やはり旨い。
サンジーズには、
モト・ギャルソンの顧客で、かつそれなり以上のライディングスキルを持ち、
そして年齢40歳以上という鉄の掟があった。
ボスの推薦ということで初の30代メンバーとなった僕にとって、周囲のお客さん方は人生の大先輩。
時に知的、時に稚拙なジョークでずいぶん盛り上がるが、
きっと会社ではとっても偉い方々なんだろうな、なんてことは想像に難くない。
宴会も終わった頃、後輩メカニック君から連絡が入った。
「バイクは無事に回収したので安心してください」
この言葉、どれほど僕を安心させただろうか。
故障の正確な原因も、修理にかかる費用も期間ももはやどうでも良かった。
信頼のおける彼の元に僕のビューエルはきちんと渡った。
それだけで、もう全てが解決したような気持ちだった。
電話で故障について色々話をした後、最後に彼は言った。
「そういえば、バイクが故障した時、そこに犬いませんでした?」
あのオオカミのことか。
「トラックで現場に着いたら、バイクの横に犬がずっと座ってました。」
なんと。
泣かせる犬じゃないか。見張りをしていてくれたのか。
だから僕のビューエルは誰にも盗まれなかったんだね。
おまえが守ってくれたんだね。
お礼を言わなきゃならないね。
「首輪もしてなくて、首輪の痕もない野良犬ですね。僕、店に連れて帰りました。」
驚いた。笑
しかし犬が大好きな彼ならやりそうなことだ。
やせ細っていたし、正真正銘の野良犬だろう。
あのオオカミもどきは、新しい、いやもしかすると初めてのご主人と出会えたわけだ、
僕のビューエルがストールしたことによって。
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行 く 気 散 じ や
夏 野 原
アメリカと日本、
そしてそれぞれの文化を
こよなく愛し、
その矛盾する感覚に
自分自身興味津々。
1996 BUELL S1
僕の頼もしい愛車。
葛飾北斎と
MOTLEY CRUEを
崇拝しております。
休日は近所のタリーズで
絵を描いたり、
雑誌読んだり、
人間観察したり、
考え事したり、
何もしなかったり。