Like a rolling stone ＃1

" Rolling stone gathers no moss. "

「転石苔むさず。転がる石に苔は生えない。」

そういう意味の欧米のことわざだ。




さてどういう意味か。




「職を変えてばかりいては金持ちにはなれない」

イギリスでは悪い意味でこのことわざを使う。

転石は悪いモノであり、だからこそ彼らはRolling Stones と名乗るのだ。





「常に活動的な人は新鮮であり沈滞しない」

アメリカでの転石は良いことへの評価だ。





さてここで大切なのは、

僕のRolling stone がどちらへ転ぶか。








暑い夏が始まろうとしている頃だった。

仕事帰りに、履歴書を買った。




それまで、辞めたいと思うことは何度もあった。

それこそ、些細な出来事で人の心境なんて天国と地獄を行ったり来たりだ。

接客業に向いた性格だとは一度も思わなかった、向きと不向きがあるのなら。


それでも僕は辞めなかった。

常に懸命に仕事に取り組んできたつもりだ。

どんなに辞めたいと思うことがあっても、

それがどんな理由によるものでも、

帰り道に履歴書を買ったことは一度だって無かった。








正直言って、履歴書を買っただけで少しスッキリしたもんだ。

仕事を辞めることもできるのだと言うことを、

他にも広い世界があるのだということを、

たかだか履歴書を購入しただけで感じられた気がした。


きっと、

そういうタイミングだったのだ。








実は明日、僕の出勤は最終日になる。

来週の泊まりのツーリングには参加するけれど、

店で働くのは明日が最期だ。


おおいに悩んだ。



転職活動というものが終わるまでというのは、

内定をもらえるか否かだ。

出来ることは限られているし、

その結果は自分次第というものではない。



内定をもらった途端に僕を襲った、悩みに悩んだ日々。

転職するか、会社に残るか、

それは僕の手の内に握られていた。

だからこそ、その決断には勇気が必要だったし、

悩みすぎて転職の動機すら思い出せないくらいだった。


でも、

きっとそういうタイミングだったのだ。

誰にも伝えられないその感覚を、

僕は信じている。







苔も生えぬ生ぬるい転職願望か。


苔も生やさぬ鮮やかな身の振りようか。





正直、それはどっちでもいいのだ。



そういうタイミングだった、

僕に言えるのはそれだけなのだ。