" A "

泳ぐのが苦手であるのなら、

海にもプールにも行かなければいい。



人混みが苦手だというのなら、

人混みを避けて活動すればよい。



大人になってしまえば、

たいていの物事を自ら選択することができるし、

不得意な、苦手な物事にトライしなければならない状況なんて、

日常の生活においてそうそうありえる話ではない。


恋愛を除いてはね、笑。















友人"A"。



古くから付き合いのある彼は、

恋愛が苦手だ。


恋愛や女性が嫌いなのではない。

上手に駆け引きできないのだ。

人にはもっともらしいアドバイスをするくせに、

自分が惚れたら直線的にぶつかる以外の方法を知らない、笑。




久しぶりにあった彼は、

どうも苦手な恋愛をスタートさせてしまったらしい。

海も、プールも、人混みも避けられる彼だが、

どうやら恋愛は回避できなかったようだ。




注文した酒がくる前から、

彼はため息をつきながら、でも幸せそうにそんな話をし始めた。


可愛くて可愛くて仕方が無いらしい。

綺麗で、素敵で、全身の力が抜けてしまうらしい。


聞いていて笑ってしまいそうになるが、

彼は今、超本気なのだ。





そんなに可愛い娘なのに

彼氏はいないのかと尋ねると、いるのだと言う。

それは問題じゃないのだと。


だいぶ問題だと思うんだけど、笑、

彼の気持ちは良くわかるし、

それで諦めがつくようなら最初から避けられる恋愛だったのかもしれない。




話を聞いていて、すごく考えたんだけど、

恋愛の目的って一体何なんだろう。

付き合うこと？

そうだとしたら、付き合う目的とは何だろう。

結婚なんでしょうか？

結婚だとしたら、結婚の目的は？



きっと今の彼に、そういうものは見えていない。

デートに誘うのも、

その可愛い娘が笑ってくれるのも幸せでしかたなく、

けれど彼のものにすることはできず、

しかし身を引くわけにはいかない、

なんとも訳のわからない状況。


でもそれは彼にはすごくシンプルで、

ただ、ただただ好きなんだろう。






































彼以外の人が同じ状況だったら、

「諦めろ」と僕は言うと思う。


でも、彼にそう言えず、言うつもりも無いのは、

言っても絶対に聞かないのを、

聞けないのをわかっているのと、笑、

彼なら何とかするのではないか、

いつかその娘に気持ちが通じるのではないか、

と思いたい気持ちとがあるから。





友人 "A"。

彼は今すごく燃えていて、

僕はすごくそれを応援している。

僕もどちらかというと恋愛や駆け引きが苦手だ。

だから、自分のことのように応援したくなるのだ、彼を。